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シンブルとは?アンティークコレクション指貫の歴史と魅力
- 水野 友紀子
シンブル(thimble)

初めて見つけた時、使い方が分からなくて、気になって仕方がなかったアンティークの雑貨。それがシンブル(thimble)です。
英語では「Thimble(シンブル)(ティンブル)」、フランス語では「dé(デ)」と呼ばれる、お裁縫道具のひとつ指貫(ゆびぬき)のことなんですが、日本の指ぬきとは形が全く違う~!!
私が小学校から使っている指ぬきは、革製で指輪のように指にはめて使うもの。
でも、イギリスで見つけたアンティークのシンブルは、コップをひっくり返したような形なので使い方が分からず…それほど興味がありませんでした。
ところが、お客様のお家に伺った際、たくさんのアンティークのシンブルがキレイに並べられて飾られているのを見てビックリ!
実はシンブルを集めているコレクターの方が世界はもちろん日本にもたくさんいるということを知り、それ以来、買い付けの度に探してくるようになりました。
シンブルの歴史と語源
指貫の歴史は古く、一番古いものは朝鮮半島で見つかった紀元前1世紀頃に作られたもの。衣類を作る際、指が痛くならないように革で出来た指輪タイプの指貫を使うようになりました。
その後、帆船の帆を縫う時に、指先をしっかり保護するため金属製のシンブルが使われるようになります。
それまでは指輪型のものが主流でしたが、西洋の王侯貴族の女性がお裁縫をする時に使うようになったことで、コップをひっくり返したようなキャップ型のシンブルが主流になっていきます。

シンブルの語源は「Thumb bell(サムベル)」
もともとは親指に乗せる鐘のような形のものだったことから「親指(Thumb)」の「鐘(Bell)」と言う意味でサムベルと呼ばれるようになりました。
とは言え、シンブルは親指だけに被せるものだけではなく、中指や薬指など自分が使いやすい指の指先に被せて、針の頭をシンブルの先で押して縫ったり、針先を受けとめるために使う、指先を保護するためのお裁縫道具です。
指に被せた様子から別名「指の帽子(finger hat)」とも呼ばれています。
王侯貴族の女性のステイタスシンボル
17世紀以降、西洋の王侯貴族の女性たちの間で針仕事は「女性のたしなみ」として人気になります。
マリーアントワネットが好んだプチポワンのように、余暇に刺繍を楽しむようになり、より精巧な裁縫の技術が求められるようになりました。

革製だったシンブルも、耐久性が高く生地の滑りがいい陶磁器で出来たものが主流に。指輪タイプだった形がキャップ型に変化していきます。
同時に、周りの人たちに見せびらかして自慢するため、銀で出来たものや宝石をつけたものなど、高級なシンブルが作られるようになっていきます。
西洋の女性の間では「裁縫道具を集めると幸せになる」と言い伝えがあることから、大切な方への贈り物としてシンブルをプレゼントすることが大人気に!
プレゼントされた高級なシンブルを使わずに、装飾品として飾ることが王侯貴族の女性たちの間で大流行します。
それ以降、現在に至るまで女性の贈り物として人気の高いシンブルは、使うのはもちろん装飾品としてコレクションする方も多い人気のコレクターズアイテムです。
クレステッドチャイナのシンブル
19世紀後半から20世紀初めにかけてイギリスでは鉄道が発展し、一般市民の間でも国内旅行を楽しむようになりました。
特に海辺のリゾート地が大人気!観光客向けのお土産物の需要が高まり陶磁器メーカーが地名入りのお土産を作るようになります。

その際、観光都市の紋章や地名を入れるたものが大流行し「クレステッドチャイナ」と呼ばれるようになります。
贈り物として人気のシンブルもクレステッドチャイナとして大人気!紋章や観光地の地名が入ったシンブルがお土産として作られるようになりました。

ところが1920年以降、第一次世界大戦の影響で観光業が低迷したため、クレステッドチャイナの人気も減少。
第二次世界大戦後はおみやげもののスタイルも大きく変化したので、クレステッド・チャイナの生産は終了してしまいました。
観光地名が書かれたアンティークのシンブルが見つかるのはその名残。
旅行のおみやげとしてプレゼントされたシンブルが時を経て、アンティークとして見つかったものです。
紋章が入ったクロステッドチャイナのシンブルは年代も古く、貴重なものが多いので人気です。
不思議の国のアリスとシンブル
19世紀になると、凝った洋服が流行したことで、ますますお裁縫が人気になり、指貫もいろんなものが作られるようになります。
小さい頃から女の子はお裁縫を習うようになり、いつもポケットの中にシンブルが入っているのが普通でした。

不思議の国のアリスの中でも、ドードー鳥が提案してきたコーサスレースの賞品として、アリスがポケットから取り出したのは・・・シンブル!
また、ピーターパンの中でもウェンディがピーターパンに指貫をプレゼントするシーンがあったり…と、絵本の中でもたくさん紹介されていることから、この時代、常に女の子はシンブルを持ち歩いていたようです。
クリスマスプディングとシンブル

英国のクリスマスに欠かせないお菓子がクリスマスプディング。
クリスマスの1カ月前までに作っておくケーキのことで、日本のクリスマスケーキやプリンとは違って、小麦粉に油脂とドライフルーツやクルミなどのナッツや、ナツメグやシナモンなどの香辛料にラム酒を混ぜ合わせた生地をオーブンで焼き上げたものです。
伝統的な作り方は、家族全員が1回ずつ願い事を言いながら生地を時計回りに回すこと。そして、6ペンス硬貨と指輪、そして指貫の3種類を入れます。
コインはお金持ちになれるように
指輪は結婚できるように
指貫は幸せな人生を送れるように
との意味が込められてます。
食べる時に硬貨と指貫を引き当てた独身の男女は運命の相手という言い伝えもあり、そう言えば以前、NHKの朝ドラ「マッサン」で、そういう場面があったことを思い出しました。
いろんな場面で、いつも幸せを呼んでくる指の帽子「シンブル」から気軽にアンティーク生活を始めてみませんか?


Q&A
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水野 友紀子
空間スタイリスト。
アンティークショップHandleバイヤー。大学で小さい頃から好きだった化学実験が出来る薬学を専攻。薬剤師となり、製薬会社で研究職に就く。 結婚を機に、休日は嫁ぎ先の老舗家具屋の手伝いをすることに。
家具のことを学びながら、そこで得た知識と固定観念にとらわれない主婦目線での女性らしい提案が、お客様に喜んでもらえることが嬉しくなり、薬の研究を辞め、インテリアの研究に没頭することを決める。
アンティーク家具に出会い、それまで知らなかった世界に感動。 家具やインテリアに対して伝えたいことや、自らが買い付けてきたアンティークに対する想いを「買い付けうらばなし」や「まいにちハンドル」に綴り、日々配信中。
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アンティーク家具Handle
(水野商品館 株式会社)1903年創業
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