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ウェッジウッドのアンティーク食器で叶える特別な時間
- 水野 友紀子
誰もが一度は聞いたことがある、英国の老舗陶磁器メーカー「ウェッジウッド」。
世界中で愛される陶磁器メーカーの歴史を、創業者ジョサイア・ウェッジウッドの生い立ちとともにお話しします。
~ ウェッジウッドの目次 ~
1.ウェッジウッドとは 2.「用の美」クリームウェア 2-1 女王陛下の陶工 2-2 科学者ジョサイア 2-3 トーマス・ベントレー 3.「装飾の美」ジャスパーウェア 3-1 ジャスパーの色 3-2 ジャスパーのアイテム 3-3 社会活動家ジョサイア 3-4.ジャスパーのある暮らし 4.ポートランドの壺Wedgwood
ウェッジウッドとは
今も、たくさんの人から愛される英国王室御用達の陶磁器ブランド、Wedgwoodウェッジウッド。
1759年の創業以来、260年以上の歴史があるウェッジウッドが作りだす食器は、王室や貴族、一流ホテルなどで使われ、日本各地にも専門ショップがたくさんあって、知らない人がいないくらい誰もが知る、世界最大級の陶磁器メーカーです。
常に新しいことに挑戦し、真っ白い陶器、クリームウェアやジャスパーウェア、そしてポートランドの壺を生み出したウェッジウッドは、単に実用的な道具だった陶器を芸術の世界へ導きました。
イギリス陶工の父
ジョサイア・ウェッジウッド
1730年、英国の陶磁器の聖地、ストークオントレントのバーズラムにある陶房の13人兄弟の末っ子として生まれたジョサイア・ウェッジウッド。
ジョサイアが9歳の時に父が他界したため、学校を中退し、陶房を継いだ長男の下で、陶器職人としての修業をはじめました。
ところが11歳の時にかかってしまった天然痘(痘そう)の後遺症で、右ひざが動かなくなってしまいました・・・
当時、足でペダルを踏んでロクロを回し、陶器を作っていた陶器職人にとって、足が動かないことは致命的・・・
そこで発想を変えて、自分で製作するのではなく、陶器を作るための素地や釉薬の研究に没頭し始めました。
ところが、貧しい実家で彼の研究は現実味がなく、22歳で家族から離れることを決めたジョサイア。
その後、いろんな経験を積み、1759年、29歳の時に独立。バーズレムの賃貸アイビーハウス工房で世界的陶磁器ブランド「ウェッジウッド」は産声をあげました。
Wedgwood
「用」と「装飾」2つの美しい素地
とても研究熱心だったジョサイア・ウェッジウッドは、努力の末、陶磁器に使う2つの素地を作り上げました。
1つめは「用の美」として、普段使いするための「クイーンズ・ウェア(クリームウェア)」と名前の付いた白い陶器。
もう1つは「装飾の美」として今も多くの人を惹きつける「ジャスパーウェア」です。
ウェッジウッドを代表する2つの素地の特徴や誕生秘話についてお話しします。
「用」の美
クリームウェア
ヨーロッパで、中国の磁器や日本の伊万里焼のような、白くて美しい磁器が流行していた頃、ヨーロッパの作陶家たちの間では、磁器が作れないヨーロッパの土を使って、磁器のように白く美しい陶器を作る研究が行われていました。
独立前から白い陶器の開発に取り組んでいたジョサイアは、1761年に、白い粘土と珪石を素地に使い、鉛の釉薬をかけて二度焼きすることで、磁器のように半透明な質感を持つクリームウェアを完成させます。
また、製造過程で機械を導入したことで、大量生産を可能にし、高品質で低価格のクリームウェアを提供できるようにしました。
それまでは、陶磁器の食器は上流者階級だけのものでしたが、ジョサイアが作り上げたクリームウェアは実用的な陶器として、それまで陶器の食器を使わなかった労働者階級の人たちにも広がっていきました。
Queen’s ware
女王陛下の陶工
1765年にジョサイアは、英国王室シャーロット王妃から、日常で使うためのクリームウェアの食器の製作を依頼されます。
完成したクリームウェアがとても気に入った王妃は「Queen's Ware クイーンズ・ウェア(女王の器)」という名前を贈り、さらに翌年「Potter to Her Majesty(女王陛下の陶工)」の称号も拝命します。
これを機に、王室御用達の陶工家として、世界中に知られることになったジョサイアのところには、上流階級の人はもちろん、アメリカやロシアなど、世界中の王侯貴族から注文が入り、ウェッジウッドは世界中に広がっていきます。
上流階級からの注文には、職人の技術を生かした華やかな装飾や絵付けにこだわったクリームウェア、一般に販売されるものは、大量生産できるシンプルで使いやすいクリームウェアと、階級によって商品に差をつけたジョサイア。
そのことにより、クリームウェアはより幅広い階級の人たちが日常的に使う食器として支持され、愛される食器になっていきます。
Josiah Wedgwood
科学者の顔
ジョサイア・ウェッジウッドは、いろんなところで才能を発揮しました。
海洋学者として、当時、大人気だった貝を専門にコレクションし、貝を詳細に表現して陶磁器に描いたり、「シェルエッジ」と呼ばれる貝のひだ模様をクリームウェアの縁に装飾として施したり・・・と、海洋生物を陶磁器の絵付けや形のモチーフに取り入れました。
また、1782年に、窯の温度を測ることが出来るパイロメーターを発明したジョサイア。おかげで、窯の中の温度調整がカンタンに出来るようになり、生産性をアップさせることに成功しました。
親友&理解者トーマス・ベントレー
ウェッジウッドの発展には、ジョサイアの親友で共同経営者だったトーマス・ベントレーの存在が欠かせません。
創業間もない頃のバックスタンプに「BENTLEY」の文字が刻印されていたくらい、ジョサイアにとって大切な存在だったベントレーは、とても裕福な商人の家に育ち、大学を卒業し、美術や学問に対する知識も豊富。
フランス語やイタリア語などの語学も堪能で、人脈もあったベントレーは斬新なアイデアの持ち主で、当時は誰もやっていなかった販売戦略をあみだしました。
当時、実物の商品を持って訪問販売するしかなかった時代に、ベントレーは、今では当たり前になった、美しい商品カタログを作り、カタログを上顧客に配る販売戦略をとります。
おかげで、在庫がない商品の注文も受けることが出来るようになり、さらに、フランス語やドイツ語、オランダ語などのカタログも作り、カタログを配りながらヨーロッパを旅することで、ウェッジウッドの企業イメージをヨーロッパ中に高めていきました。
「装飾」の美
ジャスパーウェア
宝石のような美しさを持つ焼き物を夢見たジョサイアが、4年間で数千回もの研究と実験を重ね、1744年についに完成した「ジャスパーウェア」
独特のマットな質感の下地はストーンウェア(炻器)で、1200~300℃の高温で硬く焼いたものです。
釉薬を掛けて焼くことの多いストーンウェアですが、ジャスパーウェアは特殊。無釉で仕上げているため、独特な手触りです。
素材自体は、水分を吸収しにくく水を弾き、匂いや汚れにも強く、高温で焼いているので熱にも強い焼き物です。
Jasper ware
ネオクラシカル様式
ジャスパーウェアに施された宝石のように美しいレリーフの模様。これは、古代ギリシャやローマの装飾模様をモチーフにしたネオクラシカル様式が使われています。
ジャスパーウェアが誕生した18世紀、ボンペイ遺跡の発掘が進められ、人々の関心は古代ギリシャやローマ時代のものに高まっていました。
その流行をいち早く感じ取ったジョサイア・ウェッジウッドは、ジャスパーウェアにネオクラシカル様式のレリーフを施したことで、上流階級の人たちの間で「装飾用の焼き物」としての地位を築いていきました。
そもそもジャスパーとは石英の結晶が集まってできた鉱物のことで、碧玉(へきぎょく)とも呼ばれる宝石の一種です。
グリーン、ブルー、イエローなどいろんな色がある石英の名前をとって、「ジャスパー・ウェア」と名前が付けられました。
Jasper ware
ジャスパーウェアの色
ジャスパーウェアは、何度も研究、開発が進められ、ブルー系からグリーン、ピンクなど・・・いろんな色のものを見つけることが出来ます。
その中でも、代表的な色をご紹介します。
空色をした爽やかなペールブルー。ジャスパーシリーズを代表する定番の色は「ウェッジウッドブルー」とも呼ばれ、ブランドを象徴する一番人気のある色です。
英国王室のオフィシャルカラーとして使われている、高貴な雰囲気が漂うロイヤルブルー。現在は、ディップドカラーのみに使われる希少な色です。
一際大人っぽい、深みのあるポートランドブルーは、日本人にも馴染み深い「藍色」のことです。しっとりと大人びた落ち着いた雰囲気の色です。
名前の通り、ハーブのセージを思わせるような優しいグリーン色、セージグリーン。ペールブルーに次いで生産量が多い、人気の色です。
コレクターの間で人気のブラック。とっても希少で、マーケットではほとんど出会えない色。白いレリーフがより浮かび上がります。
80年代に3年間だけ作られていたライラックピンクはほとんど目にすることが出来ない貴重な色です。優しい藤色が人気です。
Jasper ware
ジャスパーウェアのアイテム
ジャスパーウェアは長い年月をかけていろんなアイテムが作り出されてきました。
今までHandleで見つけて来たいろんなジャスパーウェアをご紹介します。
item01 プレート
美しいリレーフが、一番ハッキリ見えて楽しめるプレート。
眺めてリレーフ模様の美しさを楽しむのはもちろん、アクセサリーや小物などを乗せて実用的に使えます。
いろんな形、大きさがありますが、スペードやダイヤなど、トランプのマークを形にしたプレートは、大人気です。
item02 記念プレート
毎年、クリスマスに作られる限定クリスマスイヤープレートや、大きな行事などがあった時に作られた限定プレート。
限定数だけ作ると、型を壊してしまうので、過去に作られたものを手に入れることができるのは、アンティークのみです。
プレートが作られた年、行事もちゃんと刻まれているので、歴史を直に感じることが出来ます。
item03 灰皿
実は、熱にとても強いジャスパーウェア。耐熱性を生かして、たばこの灰を落とすアッシュトレイ(灰皿)も作られています。
実際にたばこを吸う方はもちろん、模様がとても華やかなので、アクセサリートレイやディスプレイ用として使ったり、プレゼントにも人気です。
item04 小物入れ
ジャスパーウェアのフタ付き小物入れは、入荷する度、すぐにお嫁に行ってしまう人気アイテム。
炻器らしい重みのあるフタを持ち上げる度、中に入れてあるものを見るのが愛おしくなる小物入れです。
item05
フラワーベース
実は耐水性があるジャスパーウェアは、いろんなデザインの花器も作られています。
ジャスパーウェアの色とお花の色のコラボがとても美しく印象的です。
item06
カップ&ソーサー
カップを囲むように描かれた、独特のレリーフ模様が美しいカップ&ソーサー。
置いてあるだけでパッと目を惹くデザインはもちろん、ジャスパーウェア独特のサラサラとした手触りを楽しみながら、優雅なティータイムを過ごしてみませんか?
item07 ピッチャー
なかなか見つからない、ジャスパーウェアのレアアイテム、ピッチャー。
ミルクを入れて使うのはもちろん、見た目が華やかなので、お花を生ける花器としても大活躍。いろんな用途で楽しめます。
item08 シンブル
上流階級の女性たちがたしなんでいたお裁縫には欠かせないアイテム、シンブル(指ぬき)も、ジャスパーウェアで作られてものがあります。
数がとても少ないため、コレクターズアイテムの中でも貴重なアイテムです。
item09 ブローチ
18世紀から、ジュエリーとして愛されてきたジャスパーウェア製のアクセサリー。
もともとはジョサイアが奴隷解放運動の一環として作ったメダリオンが始まりです。
ペンダントトップとしても使えるブローチには、ジャスパーウェア特有のレリーフ模様が繊細に描かれています。
Josiah Wedgwood
社会活動家の顔
1768年には、ベントレーがマネージャーとなって、ロンドンの大通り、ニューポート・ストリートに倉庫一体型のショールームをオープンさせたウェッジウッド。
ブランドイメージを不動の地位に押し上げたジョサイアとベントレーは、陶磁器の町、ストークオントレントの陶工家たちが長い間悩んでいた、陶磁器を割らずに運搬するための経路を考えます。
そして1777年に完成したのは、なんと・・・運河!!
ストークオントレントと、商業都市、リバプールを水路でつなぐ、トレント&マージ―運河を開通させたことで、運ぶ際の運搬コストが85%も軽減。町全体の経済が活性化しました。
ストークオントレントの活性化にも貢献した2人でしたが、1780年にベントレーが49歳の若さで亡くなります。
人格者だったベントレーが奴隷制度の廃止を指示していたことを知ったジョサイアは、意思を受け継ぐことを決心。1787年に奴隷解放メダリオンを作り、無料で顧客に配布しました。
メダリオンをアクセサリーとして帽子やブローチ、時計などに付けることが流行し、結果として、奴隷制度反対への影響を広めていく社会貢献の運動につながりました。
Wedgwood
ジャスパーウェアのある暮らし
ジャスパーウェアは、現在も作り続けられていますが、アンティークのものは、今は手に入れることが出来ない、めずらしいアイテムや、年月を経たことで得ることが出来る光沢や優しい風合いを楽しむことが出来ます。
コンパクトなサイズのも多いので、思わず集めたくなる可愛いウェッジウッドのある暮らしをご紹介します。
point01
集めて楽しむ
今は手に入らない色やアイテム、記念日に作られたプレートなどいろんなものがたくさんあるジャスパーウェア。
まずはお気に入りを1つ購入して、少しずつ集めて楽しみましょう。
point02
お花を生ける
水にも強いジャスパーウェアは、花器としても使える陶磁器です。
とても優しいジャスパーの色と、鮮やかなお花の色のコラボ。1輪挿すだけで、お部屋の中が華やかです。
point03
おもてなしに
フタ付きのケースは、アクセサリーなどを入れるのはもちろん、お客さまが来たとき、お菓子を入れて出せば、粋でおしゃれなお茶請けに。
洋菓子はもちろん、和菓子や日本茶にも似合うので、どんなお菓子に使っても素敵なおもてなしができます。
point04
実用的に使う
熱に強いので、灰皿として使うのはもちろん、おつまみをのせて、パーソナルチェアに座ってゆったりとくつろぎながら晩酌を楽しんでみませんか?
いつもと違うちょっと贅沢な時間が楽しめます。
point05
プレゼントする
優しい手触りが魅力のジャスパーウェアは、大切な人への贈り物にもピッタリです。
古代ローマのカメオをモチーフにした上品な白いレリーフが印象的な誰にでも愛されるデザインは誰にプレゼントしても喜ばれます。
ブランドマークに隠された
「ポートランドの壺」
アンティークのウェッジウッドのバックスタンプをよく見てみると、壺が描かれているのが分かります。
この壺のマークのモチーフになっているのが、ジャスパーウェアの代表作「ポートランドの壺」です。
紀元前に古代ローマで作られたカメオ・ガラスの作品、ポートランドの壺を見たジョサイア・ウェッジウッドは、あまりの美しさに感動!
4年もの歳月をかけて1790年に黒と白のジャスパーウェアで、同じ名前を付けた「ポートランドの壺」を作りました。
ジャスパーウェアで作ったポートランドの壺の完成度は素晴らしく、大英博物館に展示されていた本物のカメオ・ガラスのポートランドの壺が粉々に割れて、200ピースもの破片になってしまった際、修復の見本にされたほど精密でした。
ウェッジウッドの本社にあるジョサイア・ウェッジウッドの像の手に抱えられたポートランドの壺。ウェッジウッドのブランドの象徴、バックスタンプにも使われています。
5世まで同族経営が続いたウェッジウッドは、1895年にジョサイア・ウェッジウッド・アンド・サンズ(Josiah Wedgwood & Sons)として会社が法人化され、大きな地位を確立していきましたが、2009年に事実上の経営破綻をしてしまいます。
その後、2015年にフィンランドを拠点とするフィスカース社の傘下に入り、今もジョサイア・ウェッジウッドの理念を継承しながら、新しい製品も生み出されています。
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水野 友紀子
空間スタイリスト。
アンティークショップHandleバイヤー。大学で小さい頃から好きだった化学実験が出来る薬学を専攻。薬剤師となり、製薬会社で研究職に就く。 結婚を機に、休日は嫁ぎ先の老舗家具屋の手伝いをすることに。
家具のことを学びながら、そこで得た知識と固定観念にとらわれない主婦目線での女性らしい提案が、お客様に喜んでもらえることが嬉しくなり、薬の研究を辞め、インテリアの研究に没頭することを決める。
アンティーク家具に出会い、それまで知らなかった世界に感動。 家具やインテリアに対して伝えたいことや、自らが買い付けてきたアンティークに対する想いを「買い付けうらばなし」や「まいにちハンドル」に綴り、日々配信中。
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