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象嵌とは?職人が語るマーケットリー家具の魅力
- 水野 友紀子
いろんなアンティーク家具の装飾がありますが、私には絶対に真似が出来ない!と思う究極の装飾が象嵌です。
本当はもっと美しいんだけれど、なかなかキレイに写真に撮れないので、いつも本物の美しさがご紹介できなくて残念~!一体、どれくらい時間をかけて造ったんだろう?と思う、まるで手描きのような細かい模様は、美術品レベル!
めちゃくちゃ面倒な工程を一つ一つ手作業で作り出した、これこそ、アンティークだから手に入れることが出来る装飾です。そんな美しい象嵌のことをお話しします。
Handle 水野 友紀子
Inlay
象嵌細工(インレイ)とは
象嵌(ぞうがん)=インレイ(Inlay)の「象」=模る「嵌」=はめるという意味で、一つの素材に異なった素材を嵌め込んで模様を描く技法のことを言います。
象嵌と呼ばれるものには、金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌など種類がありますが、アンティーク家具で使われているのは木工象嵌です。
無垢材の家具の表面に模様を彫り、その模様に沿って切り取った色の異なる木片をはめ込んで模様を描く木工象嵌は、まるで絵画のような美しさ。
とても細かい模様を見ていると、気が遠くなるほどの手間と時間がかかっていることがよく分かります。
現代の家具でここまで凝った象嵌の家具を見ることが出来ないのも納得。こんなに美しい象嵌の家具を手に入れることが出来るのはアンティークだけです。
象嵌模様の作り方
象嵌は驚くほどに手間がかかる装飾です。どんな風に作られているかご紹介します。
はじめに木を何枚か重ねて、その上にデザインを転写します。
フレットソーと呼ばれる糸のこぎりで一枚一枚切り分けます。
染料で染めたり、熱くなった砂に沈めて熱で焦がしたりして、木に色を付けます。
紙を敷いて、木片を並べて接着し、デザインを作ります。
家具の本体の無垢材の部分を模様の形に彫って、作ったくぼみにデザイン部分をはめ込みます。
最後に表面が平らになるように削って完成。とても面倒で細かい作業を繰り返し象嵌細工が出来上がります。
Inlay & Marquetry
「象嵌細工(インレイ)」と「寄木細工(マーケットリー)」
違う木材を組み合わせることで家具に絵を描く方法に、象嵌細工(インレイ)と寄木細工(マーケットリー)があります。
パッと見た目は同じように見えるのですが、厳密に言うと、細工の仕方が違います。
象嵌(インレイ)
象嵌(インレイ)とは
象嵌細工(インレイ)は、無垢材で作られた家具本体に模様の彫りこみを入れ、そこに別の木で作った模様をはめ込む細工のことです。
なので、絵の部分に近づいてよく見ると、模様の周りに切り込みが入っているのが分かります。
寄木細工(マーケットリー)
マーケットリーとは
マーケットリーとは、色の違う突板を組み合わせて絵のシートを作り出します。
模様が描かれたシートを、家具の本体に張り付ける技法です。
象嵌のように、家具本体に模様を彫りこんでいるわけではありません。
インレイかマーケットリーかは判別するのがムズカシイものが多いので、Handleでは、両方を総称して「象嵌(インレイ)」としています。
Inlay
象嵌に欠かせない突き板の誕生
そもそも、象嵌を作るためには、ウォールナット材のように堅くて収縮しない上質な木材の突板が必要です。
今のように道具や機械がなかった時代には、堅い木を薄くスライスして突板を作ることが出来なかったので、象嵌やマーケットリーなどの模様が入った家具は存在しませんでした。
17世紀中頃に技術が発達し、突き板が作れるようになったことで、家具のデザインが大きく変化します。
象嵌(インレイ)や寄木細工(マーケットリー)などで絵画のように美しい模様を木材で作り、家具に描くようになったことで、美術品のような家具が流行しました。
象嵌(インレイ)と寄木細工のマーケットリーは、作り方は違いますが、どちらも、職人さんがものすごい手間と時間をかけて、一つ一つ手作りをしたものです。
驚くほどに美しい模様は、現代の家具では、手間がかかりすぎるため、造られることがほとんどありません。
もしアンティークと同じくらい細かい模様を象嵌やパーケットリーで造り出そうとすると、値段がつけられないほど高額な家具になってしまうと思うくらい、アンティークの模様はとても繊細です。
このように、イギリスを始めとするヨーロッパの家具のデザインが美しい理由の一つは突板の誕生です。
日本ではプリント合板を突き板と勘違いする方が多く、突き板=ダメな家具というイメージを持たれる方も多いようですが、ヨーロッパの突き板は、日本の無垢材に匹敵するくらいの厚みがあり、無垢材をそのまま使って造られている家具よりも美的価値が高いと評価されることも多いです。
もちろん、象嵌は無垢材の家具に突板をはめ込んでいますし、マーケットリーの場合は、突板で装飾を作った後に、無垢材に張り付けているものも多いので、日本の方が持つ突き板=ダメな家具というイメージは間違いです。
Inlay
模様に含まれた意味
象嵌やマーケットリーで作られた模様には、いろんな絵柄があります。
それぞれの模様には意味が含まれていて、家具を作らせた人の思いなどを見ることが出来るんです。ココでは代表的な模様をご紹介します。
古代ローマで強靭な生命力の象徴とされていたアカンサスは、生命力を表す模様として、いろんな装飾で使われています。
ロゼットと呼ばれる太陽を表す模様。太陽には生命、エネルギー、成功などの意味が含まれています。
「愛」を象徴する貝殻の模様。自然が生み出した幾何学模様、巻貝のモチーフは愛を育てるお守りです。
ホタテ貝は、ヨーロッパで神聖なものとして扱われ、豊穣の象徴とされてきました。
細い線を彫り、糸状にした木などをはめ込む技法をストリンギング。チェストの引き出しや天板などによく使われます。
お花の模様は象嵌細工の中で一番よく使われる模様。19世紀後半に流行した花言葉が含まれているかも??
Inlay
使える美術品「象嵌」の家具
象嵌って写真には、なかなか上手く映せないので、実際に実物を見ていただいた方が数倍・・・いや、数百倍キレイなんです!
実物の美しさを伝え切れないのが残念ですが、今までHandleでご紹介してきた象嵌の美しいアンティーク家具をご紹介します。
1930年代 イギリス マホガニー材.
サロンで使われていたサロンチェアは、フォルムはもちろん、象嵌細工が美しいものがとても多いです。目でも楽しむ美術品のような椅子です。
1900年代 イギリス
美術品のように美しいフォルムのものが多いセティ。象嵌があしらわれたものも多く、座るのはもちろん、眺めて楽しむ長椅子です。
1910年代 イギリス マホガニー材
女性用に造られた小ぶりなサイズのライティングデスクで、可愛らしいお花やリボンの模様の象嵌を見つけることが出来ます。
1930年代 イギリス マホガニー材
脚の曲線が美しいオケージョナルテーブル。フォルムだけじゃなく、天板に美しい象嵌があしらわれていることが多いです。
1900年代 イギリス マホガニー材
少し大きめのガラスキャビネットは、いろんな場所で象嵌を見つけることが出来ます。お気に入りの模様を見つけて下さい。
1910年代 イギリス ローズウッド材
パーラーキャビネットに使われている象嵌は最上級のものが多く、まさに芸術品レベル。驚くほどに細かい細工のものが多いです。
Inlay
みんなの「象嵌」を見てみよう
ヴァイオリンを収納する小振りのキャビネットをずっと探していたのですが丁度ピッタリ収まりました!
ヴァイオリンだけを収める為のアンティークのキャビネット。
ちょっとだけ贅沢な空間になっています。 そして心も贅沢な気分を味わっています!
ありがとうございました。
過日は素敵なキャビネットを送って頂きありがとうございました。サイズも材質も他の家具と調和していると思います。
実物を見ていないネット購入なので少し心配してましたが 予想以上に良い物でした。ありがとうございました。
先日お送り頂きました芸術品のようなオケージョナルテーブルに、ストライプのバルーンバックがとてもよく似合います。
ローズウッドのインレイドチェアとコンソールテーブルもお気に入りです。
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水野 友紀子
空間スタイリスト。
アンティークショップHandleバイヤー。大学で小さい頃から好きだった化学実験が出来る薬学を専攻。薬剤師となり、製薬会社で研究職に就く。 結婚を機に、休日は嫁ぎ先の老舗家具屋の手伝いをすることに。
家具のことを学びながら、そこで得た知識と固定観念にとらわれない主婦目線での女性らしい提案が、お客様に喜んでもらえることが嬉しくなり、薬の研究を辞め、インテリアの研究に没頭することを決める。
アンティーク家具に出会い、それまで知らなかった世界に感動。 家具やインテリアに対して伝えたいことや、自らが買い付けてきたアンティークに対する想いを「買い付けうらばなし」や「まいにちハンドル」に綴り、日々配信中。
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アンティーク家具Handle
(水野商品館 株式会社)1903年創業
【店舗&倉庫】
〒910-0019 福井市春山2-9-13
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古物商 福井県公安委員会許可
第521010008980号