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英国アンティークシルバーの魅力と楽しみ方|初心者のための選び方ガイド
- 水野 友紀子

私が初めてシルバーの食器を手にしたのは、長男が生まれた時に、お祝いで頂いたシルバーのスプーンでした。
当時は、なぜシルバーのスプーンを頂いたのか理由が分からなかったんですが、買い付けでイギリスを行き来するうちに、ヨーロッパには出産祝いに子どもの幸せな将来を祈って銀のスプーンを贈る習慣が残っていることを知りました。
「With a silver spoon in one's mouth」
銀のスプーンをくわえて生まれてきた子どもは、幸せになるという意味が込められた慣用句からも、神聖なもの、そして富と権力の象徴として特別に扱われてきたことが分かります。そんなアンティークシルバーの世界を、ちょっとのぞいてみて下さい。
Handle 水野 友紀子
世界に誇る品質英国のシルバー

アンティークシルバーと言うと、ヨーロッパの中ではイギリスが飛びぬけています。その理由は以下の3つです。
①アフタヌーンティーが誕生したこと
②王権と貴族制度が維持され続けていること
③世界に誇る品質が保たれていること
それぞれについて、カンタンにお話しします!
1アフターヌーンティーの誕生
銀器の歴史はとても古く、紀元前2500年の古代ギリシャの時代から神様と人間をつなぐ神聖なアイテムとして大切に使われてきました。

ヨーロッパでは「富と権力」の象徴として大切にされてきた銀食器。毒と反応して色が黒ずむことから毒味用としても大切にされ、家の財産として代々継承されたそうです。
英国では1840年代にアフタヌーンティーが誕生したことでゲストに「魅せる食器」として、美しく華やかなデザインの銀の器が数多く作られるようになりました。

と言うのも、アフタヌーンティーは貴婦人達のステータス。しかも催すことが出来たのは上流階級の女性だけ!
「教養やセンスを披露する場」で、「もてなす側の技量がはかられた」アフタヌーンティーで使うのに、富と権力の象徴で、食卓をエレガントに演出してくれる銀器はピッタリ!
上流階級の女性たちは競うように銀器を取り入れたので、英国では美しいデザインの銀器がたくさん誕生しました。

お茶と言えば、紅茶かコーヒーですが、シルバーの器は王侯貴族など特権階級の中で生まれた紅茶に使用するものがほとんど。
一般市民の文化、コーヒーに使用するシルバーはあまり見かけることがないんです。

2王権と貴族制度

18世紀初頭まで、ヨーロッパで銀器は家財として貴族階級しか手に出来ないものだったので、家の紋章を入れて代々受け継がれていました。
ところがフランス革命後、ヨーロッパの大半の地域で貴族体制が消滅し、貴族は財=銀器を失いました。
そんな中、イギリスは現在に至るまで王権と貴族制度が維持され、銀器も受け継がれてきた国。なので今でもシルバーが受け継がれ残っています。

さらに、産業革命で富を得て、貴族に匹敵する経済力を持ったミドルクラス(新興階級)と呼ばれる実業家たちは、蓄えたお金で貴族を真似た生活を始めました。
その際、憧れだった銀器も真似るようになり、そこからまた新しい銀器のデザインの波が生まれたことが、英国に豊富な銀器が残っている理由です。
3世界に誇る品質

他の国と違って、英国は銀の製品管理が国によって厳しく定められているので、英国のシルバー製品は古くから世界に誇る品質を保っています。
例えば、純銀に対しては、品質保証のマーク「ホールマーク」がしっかり刻印され、国単位で厳格な品質が管理されてきたことが、ヨーロッパの中でイギリスの銀が信用され、飛びぬけている理由です!
この後、詳しくお話しします。
type
シルバーの種類
銀器は大きく分けると「スターリングシルバー(純銀)」と「シルバープレート(銀メッキ)」の2つに分かれます。
純銀のアンティークは、それこそ代々受け継がれてきたものなので、手が届かないくらい高価なものも多いので、少しずつ集めたいアイテム。普段使いのアンティーク銀器として多く見つかるのはシルバープレートなので、Handleでもシルバープレートを中心に買い付けてくるようにしています。
シルバープレートを分かりやすく言うと銀メッキと表現されますが、日本語で想像する何となく安価なメッキとはちょっと違っています。
純銀だと柔らかすぎてしまうものだったり、純銀で揃いきれないものを、貴族やお金持ち、さらにヴィクトリア女王もシルバープレートで作らせたくらい重宝されたものです。
1貴族に愛された純銀
スターリングシルバーとは、純銀のこと。銀の含有率925パーミル(92.5%)含まれているものを言います。
銀の純度は100%に近くになると柔らかすぎて耐久性や強度が弱くなるので、92.5%と決められ、残り75パーミル(7.5%)は主に銅が使われています。
英国製のスターリングシルバーには、ホールマークと呼ばれる刻印が押されています。
ホールマークは、銀製品の品質を証明するための刻印で作られた工場や産地、年などが分かります。

①「メーカーズマーク(Maker's Mark)」製造した職人や工房を表します
②「アセイ・マーク(Assay Mark)」産地を意味しています
③「スタンダード・マーク(Standard Mark)」スターリングシルバーであることを示しています
④「デイト・レター(Date Letter)」検査を受けた年号を表しています
時代や国などによって様々なパターンがあり、私もディーラーから専門書を1冊もらいましたが、暗号のように読み解いていくのも一つの楽しみです。
2完成度の高い装飾銀メッキ
シルバープレートとはニッケルシルバーや銅など合金の地金に銀をコーティングしたものです。
それまで純銀では出来なかったさまざまな装飾や凝ったデザインを作ることが出来るシルバープレートは、完成度と美しさから多く普及されていきました。
当時は、まだまだほとんどの工程は手仕事。シルバープレートと純銀製品で製作工程はほとんど変わらず、彫刻もほとんど手作業によるものだったので、芸術品レベルのものも多いんです。
貴族や裕福な家庭のみでしか使用できなかった高価な純銀に代わって、一般家庭でも広まるようになったシルバープレートは、見た目も純銀と変わらないので貴族の間でも重宝されていました。
シルバープレートには、
①EPNS ( electro plated nickel silver )
②シェフィールドシルバー( silver plate on copper)
の2種類があります。

①EPNS
合金(ニッケルと銅、亜鉛を混ぜた金属)で出来た本体(地金)の上に銀メッキをかけた物。1842年にバーミンガムのエルキントン社が完成させた電気を使ってメッキをかける方法です。
この方法の開発により、安価で美しく丈夫な銀アイテムが世の中に普及しました。

②シェフィールドシルバー
(silver plate on copper)
銅で出来た本体の上に銀メッキをかけた物です。”シルバーオンコッパー”とも呼ばれています。その中でも、「Old Sheffield Silver」は電気が発明されるよりも前に作られていたもので、銅製のアイテムに薄いシート状の純銀を巻き付ける方法で作られていて高価です。
Item
食卓を彩るアクセサリー
アンティークシルバーの魅力は?と聞かれたら、まずは高貴な輝き。
そして、手に取ったときの柔らかな手触りと口にしたときの口当たりです。
現代では気軽に使えて便利なステンレスが当たり前になってしまったんだけれど、口に当てた時の独特の感触はシルバーとは全然違うんです。
一度、手にしてしまうと、やっぱり本物の感覚忘れられなくなってしまうアンティークのシルバー。
買い付けでよく見つけてくるアンティークシルバーのアイテムをご紹介します。
ティーサービスセット

ティーポット・シュガーボウル・ミルクジャグの3点もしくはホットウォータージャグを加えた4点セットで見つかります。
並べてみると、気になるのが大きなサイズのシュガーボウル。
実は、昔、砂糖は高価でとても貴重なもの。貴族のお屋敷では大きな塊で大切に保管されていました。
その砂糖のかたまりを大きなシュガーボウルに入れ、砕いてトングでつかんでいたので、シュガーボールはかなり大きめのサイズなんです。
サルヴァ

いろいろ便利に使えるサルヴァ。ある時はティーポットを乗せるトリベット、またある時はティーセットを置くトレイやお菓子を盛り付ける皿、さらに貴族のお屋敷では使用人が主人のもとに手紙や書類を運ぶときなどなど、いろんな用途で使われていました。
サイズもデザインもいろいろですが、特にヴィクトリアン時代のものは、中央にエングレーヴィング(彫金)で繊細な彫りが施されていたり、縁に立ち上がりが付いているギャラリートレイと呼ばれるものだったり、見た目がとても華やかです。
実は、この彫金はいろんなものを乗せて使った時のキズを目立たなくするための知恵。実用的に使うサルヴァは、スターリングシルバー(純金)だと凹みやすいので、装飾も美しいシルバープレートの方が好まれます。
キャディスプーン

キャディスプーンとは紅茶の茶葉をすくうためのスプーンです。当時、中国からやってきたお茶はとても高価だったので、お屋敷の女主人は鍵が付いたボックスにしまって管理していたほど。
そんな高価な茶葉を入れる容器(ティーキャディー)に入るよう小さいサイズで作られているキャディスプーン。お茶を振舞う動作は優雅でなければいけなかったので、キャディスプーンも職人の技が詰め込まれた美しいデザインのものが多く作られました。
キャディスプーンがない時代にはホタテ貝が使われていたので、その名残で貝殻モチーフのものもよく見かけます。
カトラリー

いろんなカトラリーがありますが、やっぱり英国は紅茶の国。アフタヌーンティーに関するカトラリーがたくさんあります。
例えばティーナイフ。アフタヌーンティーで出されるパンやお菓子は、手でつまめるものばかり。なので、ナイフと言ってもカットする必要がないので、まっすぐな形で、刃先が丸くなっていて歯も付いていません。
その代わり、英国で定番の乳製品であるクロテッドクリームやジャムをスコーンにつける時に使われていたので、刃先には美しい彫金が施されたものが多いんです。
同じくジャム用のスプーンは、すくいやすいように平たい形をしていて、先の部分には花や植物などの彫金が施されているものも多くゲストの目を楽しませていました。
マザーオブパール

英国アンティークの中に、キラキラ輝く白い持ち手のカトラリーを見かけることがあります。それは「マザーオブパール」とも呼ばれている白蝶貝で作られたものです。
真珠を作る貝殻から作られているので、真珠の母=マザーオブパールと呼ばれているのですが、当時の英国はこの白蝶貝を産出することが出来ず、オーストラリア近くの熱帯太平洋地域で取れたものを英国へ輸送していました。
ジュエリーに使われるような大きな貝を丸ごと加工し、カトラリーに使うという、贅沢極まりないカトラリーです。
ティースプーン

ティースプーンとは、紅茶をいただく前に、 お砂糖やミルクを混ぜるためのスプーンのことです。 デザートスプーンよりやや小さめのサイズになっています。
ヨーロッパでは昔、銀のカトラリーやフラットウェアを持つことが富の象徴とされ、人々はそれを個人用のBOXに大切に保管し、たとえ王候貴族であろうと、宴席に持参するのが普通でした。
19世紀後半になり、ようやく各家庭にも銀のカトラリーやフラットウェアを常備することが浸透し、招く側が用意する事となりました。
ヨーロッパでは、生まれながらにして裕福な子どものことをあらわす「With a silver spoon in one's mouth(銀のスプーンをくわえて生まれる)」と言う言葉があります。
現在でも西洋では、シルバーは神聖なものと言う考えと、この言葉にも通じて、生まれた子供の幸せな将来を願って、小さなティースプーンやシュガースプーンを贈る習慣があります。
シュガードング

昔は砂糖がとっても貴重だったため、大きな砂糖の塊を砕いてたくさんの砂糖をシュガーボウルに盛ってお客様をおもてなしすることは、富の象徴で、貴族の間でも一種のステイタスと考えられていました。
そのため、お砂糖をつかむために使うシュガートングも身分の高い貴族の間で使われていたため、高級なシルバーが使われていたんです。
シュガークラッシャーで大きな砂糖の塊を砕き、ニッパーやトングで掴んで紅茶に入れるために使われていました。
シュガートングだけでなく、そういったお砂糖に関わるアイテムもシルバーで作られていることが多いんです。
バターディッシュ

ヴィクトリア中期にマーガリンのような人工的なバターが作られるまで、バターは最高級食材のひとつ。とても高級品だったため、バターのための銀器が多く作られました。
バターディッシュは、食事の間中、テーブルの上に置かれているので豪華なデザインが好まれ、シルバーだけで作られたものは、貝の形のものが多かったようです。
また、バターナイフにも2種類あり刃先の形で使い方が違います。
先が丸いものは各自にセッティングされるバタースプレッダー、刃先が尖っているものはサービング用として回されたので、デコラティブで美しいデザインのものが多く見つかります。
ジャムポット

ジャムが食卓に登場するのは1900年代に入ってからのこと。当時、高価だった砂糖をたっぷり使って作るジャムは、今では考えられないくらい高級品!
たっぷりのジャムを使っておもてなしをすることはとても贅沢なことでした。
こだわりの食卓で出されていたものだけに、アンティークのジャムポットのデザインはとても美しいものが多く、今も人気のアンティーク雑貨です。
ケーキバスケット

ハンドルのついたバスケットは、ケーキやマドレーヌ、ビスケットなど小ぶりなお菓子を乗せて卓上でゲストに回してティータイムで楽しまれるために作られた銀器です。
中に入れたものをより美味しく魅せるため「ピアスドワーク」と呼ばれる透かし彫りの細工が施された美しいものが多いです。
ケーキバスケットの次に、タッツァ(TAZZA)と呼ばれる脚付きで高さがあるものが人気になりました。デザートディッシュやコンポートとも呼ばれます。
ビスケットバスケット

ビスケットを盛るため専用に作られたなんとも贅沢なバスケット。
アフタヌーンティーが普及するのにしたがって、ビスケットを入れるためのケースも作られるようになりました。
こういったビスケットの入ったケースは、ただテーブルに置いていただけでなく、ゲストの席に回し、それぞれが好きな数を取っていくように使われたので、繊細なピアスドワーク(透かし彫り)などの装飾が施された美しいデザインが施されているのが特長。
回しやすいよう、持ち手のついたものも多く、さらに、ワインの席でチーズにクラッカーを添えてをいただくことが一般的な英国では、ワインやウィスキーなどと一緒に、チーズをいただく際に、このビスケットジャーにクラッカーを入れて使われていたそうです。
トーストスタンド

朝食用に三角に切った薄いトーストをトーストラックに立ててサービスするのがイングリッシュブレックファスト。
ちなみに英国のトーストと言えば全粒粉の茶色いトーストでサイズも日本の食パンよりもずっと小さく、厚みは8枚切りよりも薄いのが特徴です。
焼いた薄いトーストを専用のトーストラックに立てると、トーストが蒸れず、カリカリの状態が長続きするので朝食の必須アイテム。
トーストスタンドとして使うのはもちろん、ポストカードや名刺ラック、写真たてなど便利に使えるインテリアです。
エッグスタンド

なんとも贅沢で優雅なゆでたまご専用のスタンドがエッグスタンド。これもイングリッシュブレックファーストには欠かせないアイテムです。
日本で朝食のゆで卵といえば、固ゆでしたものを手でむいて食べることが多いのですが、西洋のゆで卵は半熟でエッグスタンドを使うのが一般的。
一緒に付いているスプーンを使ってゆで玉子を食べるというイギリス流の優雅な作法です。
エッグスタンドに立ててあるゆで玉子をスプーンの背で上部をたたいて割り、殻をむいて、殻に添ってスプーンですくって食べると、きれいに優雅な動作で食べることができます。
ナプキンリング

ちょっと良いレストランなどに行くと見かける、ナプキンリング。
日本ではなんだか気取った感じで、ちょっと緊張感があるイメージですが、イギリスでナプキンを使うことは日常。
毎日使うナプキンをくるくるっと丸めてシルバーのリングで留めるだけで完成です。
ホームパーティーやおもてなしの席などで、ワンランク上の本格的なテーブルコーディネートを楽しむことができます。
キャンドルスタンド

食卓やお部屋を照らすために使われていたキャンドルスタンドも、テーブルセッティングの必須アイテムです。
電気が使える現代、特に日本ではあまり使われないキャンドルスタンドだからこそ、特別感があるシルバーアイテムです。
ちょっと特別な日には食卓にキャンドルを灯すだけで、なんだかいつもよりも特別な雰囲気に変えてくれます。ディスプレイするだけでもオシャレに見えるキャンドルスタンド。
ゆらゆら揺れる温かなキャンドルの灯の下で、食事もおいしく見え、食卓での話にも花が咲くシルバーです。
Silver Style
英国シルバーの様式
英国家具にその時代時代での様式があるように、シルバーの形・デザインにもその時代での流行のスタイルがありました。
スタイルで選ぶ
style1
クイーン・アン様式

1702年~1714年の、アン女王が統治した時代に流行したスタイルです。
「ドリンキングクイーン」とも呼ばれた、アン女王は、家具やお茶のデザインに大きな影響を与えました。
中世の時代、家具や調度品は華美で豪華なものが多かったのですが、アン女王は実用的で快適さを求めました。
そこで、ロココスタイルをシンプルに表現した美しく、緩やかな曲線とシノワズリを融合させたスタイル「クイーン・アンスタイル」を生み出したのです。

style2
ジョージアン様式

ジョージアン様式とは、ジョージ1世から4世まで(1714年~1830年)の100年以上に渡って4人の王が統治した時代に生まれた様式です。
この時代、ギリシャやローマ時代の芸術をリバイバルさせた、ネオ・クラシックがヨーロッパで大流行しました。
イギリスでも、建築や家具、銀器などに古典的なデザインが取り入れられるようになります。
シンメトリーと直線ラインを生かしたシンプルで美しいデザインを基調に、英国らしいエレガントさがあるのが、ジョージアンスタイルの特徴です。

style3
ヴィクトリアン様式

ヴィクトリア女王(1837年~1901年)が統治した、イギリス絶頂期の時代にできたヴィクトリアン様式。
ロココスタイルの影響を受けた、ヴィクトリアン・ロココや、ゴシックリバイバルからの流れを受けたネオ・ゴシック、そこにルネッサンスやバロックなど過去の多様なスタイルを取り入れたミックスリバイバルが巻き起こり、古典的なスタイルにデコラティブな装飾をミックスさせた、独特な折衷スタイルが生まれました。
女性らしさと、豪華絢爛さを兼ね備えたスタイルが大流行したのです。

style4
エドワーディアン様式

エドワード7世(1901年~1910年)が統治した時代のスタイルです。
ウィリアム・モリスが提唱した、「アーツ&クラフト」が盛り上がり、それまでも美意識に変化が生まれます。
それまでの、豪華絢爛で女性的な装飾から、小ぶりでシンプルなデザインに見直されていきました。
過去の様式を原点にしたリバイバルを中心としつつ、装飾美と実用美を兼ね備えた、エドワーディアンスタイルは20世紀の工芸や、デザインにインスピレーションを与えたといわれています。

Decoration
シルバーの装飾
銀器の魅力は、なんといってもその美しい装飾。職人技が光る伝統の技法をいくつか紹介します。
お気に入りの装飾をぜひ、見つけてみてください。
ピアーストワーク

いわゆる、「透かし彫り」のこと。
金属をカットして、レースのような模様を造り出します。
18世紀ごろまでの銀細工職人はハンマーとノミを使っていましたが、18世紀後半ごろには糸ノコを使ってより精密なカットが出来るようになりました。
バスケットや、ボウルの縁の部分、サーバーカトラリーなどに見られます。
エングレービング

銀器の表面をカットして模様をつけていく方法です。
光を反射させる為に、斜めに角度をつけて切り込みを入れます。
そうする事で光があたるとキラキラと輝いて見えるようになります。
表面だけを削っていくので、裏面には装飾が見えないのが特徴です。
ギャラリートレイや、サルヴァなどに見られます。
エンボス

浮き彫りにする、型押しするという意味のエンボス。
ルプッセとも呼ばれるその技法は、銀の薄板を裏から叩いて深い凹みを付け、表側に文様を浮きだたせます。
ティーポットや、コンポートなどの縁に見られる装飾です。
チェイジング

金属の表面をハンマーなどで叩いて模様を凹ませる技法で、シルバーでは銀器の表面を打って模様を作っていく装飾のことです。
浮き彫り装飾の一種で、ボタニカルやお花などの模様が多くありました。
浅いものは「フラットチェイス」とも呼ばれています。
Brand
英国のシルバーメーカー
イギリスには、歴史のあるシルバーの老舗メーカーがいくつもあります。その中でも有名なメーカーを一部ご紹介します。
マップン&ウェッブ
Mappin&Webb

Mappin&Webb(マッピン&ウェッブ)社は1810年にジョセフ・マッピン・シニアによってシェフィールドで「ジョセフ・マッピン&サン社」として創業されたイギリスの代表的な老舗銀製品メーカーです。
その後、ジョセフの息子、孫たちが事業を拡大し「ジョセフ・マッピン」「マッピン・ブラザーズ」などを経て、1868年に正式に「マッピン&ウェッブ&カンパニー」となります。
1897年には、ヴィクトリア女王から初めて英国王室御用達(Royal Warrant)を授与されました。
これは女王の即位60周年を祝うダイヤモンド・ジュビリーの年であり、同社のずば抜けた銀器製造技術と品質が公式に認められたことを示しています。
1963年にはエルキントンおよびウォーカー&ホールと合併し、「ブリティッシュ・シルバーウェア社」が誕生します。しかしこの合併は失敗に終わり、1971年にはシェフィールドの本拠工場が閉鎖されます。
その後もMappin & Webbのブランド色んな会社に買収されながらも高級銀器・宝飾品ブランドとして現在も存続しています。

ウォーカー&ホール
Walker&Hall

1845年、ジョージ・ウォーカー(George Walker)が、バーミンガムで電気メッキ技術を学んだ後、シェフィールドにて「George Walker & Co.」を設立します。
当初は、商業用のメッキ加工を行っており、ジェームズ・ディクソン・アンド・サンズが顧客だったりしました。
1853年にヘンリー・ホール(Henry Hall)が共同経営者として加わり、社名を「Walker & Hall」に変更。だんだん会社は大きくなり、1860年代には100人以上の職人を雇っていました。
1900年ごろには、ロンドンやリバプール、オーストラリアにも支店を持ち、世界的な銀器メーカーになっていきます。特にティーセットやカトラリー(スプーンやフォーク)、賞品用のカップなどが人気でした。
戦争や経済の不況で大変な時代もありましたが、Walker & Hallは工場を近代化し、デザインにも力を入れて再出発を図ります。1963年にはMappin & WebbやElkingtonと一緒に「British Silverware Ltd.」に合併されますが、Walker & Hallの名前はしばらく残りました。

ヴァイナーズ
Viners

Viners(ヴァイナーズ)は、ドイツからイギリスに移住してきたユダヤ人家族によって始まりました。1900年代の初めにシェフィールドに移り住み、1908年から本格的にカトラリー製造を始めました。
家族の中でもルーベン・ヴァイナーという人物がとても重要で、彼が中心となって会社を大きくしました。1930年代には、工場の規模も大きくなり、安くて使いやすいステンレスのカトラリーが人気に。
1936年には王室から「御用達(ロイヤルワラント)」の称号をもらい、イギリス国内でも有名なメーカーになりました。
第二次世界大戦後も成長を続け、1950?60年代には新しい工場や製品開発、デザインに力を入れ、世界中に展開するブランドになります。
ところが1970年代になると、海外からの安い製品との競争が激しくなり、在庫や投資が負担となって次第に経営が悪化。1982年には経営破綻してしまいました。
その後、ブランド名は他社に引き継がれ、現在も「Viners」という名前は使われています。

ジェームズ&ディクソン
James Dixon&Sons.LTD

James Dixon&Sons.LTD(ジェームズ&ディクソン)は、1806年にジェームズ・ディクソンとトーマス・スミスによって、イングランドのシェフィールド、シルバーストリートにて「ディクソン&スミス」創立しました。
ブルタニアメタル製のティーポットや、家庭用品を手掛けていましたが、1823年にスミスが退社したのち、ディクソンの息子、ウィリアム・フレデリック・ディクソンが加わり、1835年に「ジェームズ・ディクソン・アンド・サンズ」となりました。
1924年にはシェフィールドのコーニッシュ・プレイスに移転し大きな工場を建てました。それにより、蒸気機関を使った動力を導入し、機械化を進め大量生産が出来るようになりました。
19世紀半ばには、同社はブリタニアメタル製品、銀器、電気メッキ製品、カトラリー、ティーセット、キャンドルスタンド、薬などを入れるフラスコ、ホイッスルなど、多岐にわたる製品を製造し、世界中に輸出していました。
また、1879年には「トランペットとバナー」の商標を登録し、ブランドの象徴としたのです。1920年、同社は有限会社となり、1930年には同じくシェフィールドの老舗であるウィリアム・ハットン・アンド・サンズを吸収合併したりして、大きくなっていったのですが、第二次世界大戦後には需要が減り、海外からの競争により業績が悪化し、1976年には経営破綻しました。

Maintenance
普段のお手入れについて
シルバーは、放置しておくと、銀と空気中の硫黄が反応して変色します。実は、毎日使えば変色することはないので、ドンドン使うことが一番!
大切に使えば時代を超えて輝き続けるアンティークのシルバー。普段のお手入れ方法のポイントを押さえて、銀器のある生活を楽しんでください。

【使用方法】
カトラリーなど食事で使うものは、使い終わったら普通の食器用中性洗剤で洗い、水分を手早く拭き取るだけ。シルバーの光沢は保たれます。
【ポイント】は
①柔らかいスポンジを使って洗うこと。目が粗く硬いスポンジ面を使用すると、摩擦によって食器を傷つけてしまうことがあるので注意しましょう。
②レモン成分が入った洗剤は変色の原因になるので使わないようにしましょう。
③洗ったあとは水滴の後が残ってしまうので拭き取って下さい。
④食洗器は使用しないようにして下さい。

銀器が変色してしまった場合、市販のシルバー専用のクロスやクリーナーなどで磨きましょう。
クリーナーには研磨剤が含まれているので、同じ場所を何度もこすらないようにしましょう。
また、シルバー以外の部分(白蝶貝や象牙など)にはクリーナーが付かないようにしましょう。
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水野 友紀子
空間スタイリスト。
アンティークショップHandleバイヤー。大学で小さい頃から好きだった化学実験が出来る薬学を専攻。薬剤師となり、製薬会社で研究職に就く。 結婚を機に、休日は嫁ぎ先の老舗家具屋の手伝いをすることに。
家具のことを学びながら、そこで得た知識と固定観念にとらわれない主婦目線での女性らしい提案が、お客様に喜んでもらえることが嬉しくなり、薬の研究を辞め、インテリアの研究に没頭することを決める。
アンティーク家具に出会い、それまで知らなかった世界に感動。 家具やインテリアに対して伝えたいことや、自らが買い付けてきたアンティークに対する想いを「買い付けうらばなし」や「まいにちハンドル」に綴り、日々配信中。
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アンティーク家具Handle
(水野商品館 株式会社)1903年創業
【店舗&倉庫】
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第521010008980号
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