チューダー様式とは?英国家具の原点|誕生の歴史と特徴

水野友紀子
水野 友紀子
チューダー様式とは

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「英国の家具の歴史はイギリスの歴史」とも言われるくらい、いろんな様式の家具が誕生しましたが、その原点になっているのが・・・チューダー様式です。

家具はもちろん、建築でもよく耳にする「チューダー様式」とは、一体?!分りやすく説明します。


Tudor style

チューダー様式とは

ヘンリー7世

チューダー様式とは、英国でチューダー朝が始まった1485年から1603年の間に、ゴシック様式を英国独自のスタイルで発展させた様式のことです。

当時の王であったヘンリー7世(ヘンリー・チューダー)の名前から付けられました。

他のヨーロッパの国々ではルネサンス様式が始まっていましたが、イギリスではこの時代、絶対的な権力を握っていた教会で使われた聖堂様式(ゴシックスタイル)の影響を受けながら確立させた、英国独自のスタイルです。



Birth of Tudor style

チューダー様式の 誕生

100年戦争

チューダー様式が誕生する少し前の中世では、百年戦争に敗北したことで情勢が悪化し、さらにバラ戦争が続いたことで英国国内はとても混乱した状態が続いていました。

戦いに勝てば大きなお屋敷を建て、負ければ失う・・・この繰り返しだったので、人々はいつでも引っ越しが出来るよう、流動的に家を構えていたので、生活に密着した家具というものはほとんど存在していませんでした。


モンクスベンチ

そもそも当時、家具は手作業で造られていたため、とても高価で貴重なもの。

何代にも受け継がれて大切に使われるものだったので、アイテムもとても少なかったんですが、内戦で火災や襲撃などが起きて引っ越ししなくてはいけない時に、家財道具を入れて持ち運ぶために使う箱型でフタ付きの移動が櫃が必要になり、チェストコファが家具として使われるようになりました。


コファ

最初は、何枚かの板を組合わせて木釘や鉄くぎでつなげただけのとても簡単な造りのものでしたが、前板部分にノミやタガネを使って浅浮き彫り(レリーフ)でデザインを彫り込むようになりました。

この時代、最高の技術や芸術は絶対的な権力を握っていた教会で使われていた聖堂様式(ゴシックスタイル)と呼ばれるデザインだったので、英国の王侯貴族の間では、家具の装飾にゴシック様式を用いていました。


コファ

ところが、ヘンリー8世の時代に入り、大きな変革が起きます。というのも、スペイン王妃のキャサリン妃と結婚したヘンリー8世は、侍女のアン・ブーリンに夢中…(汗)

絶対的な権力を持っていたローマ・カトリック教会にキャサリン妃との離婚を申し出ましたが、認められなかったため、離脱することを決心!(大汗)

その結果、なんと!自らイギリス国教会を創設。いわゆる「宗教改革」を起こします。


宗教改革をきっかけに、ルネッサンスの影響を受け始めた英国の職人たちは、ゴシックデザインが全てではない!というコトに気づき、生活に沿った美しいデザインを生み出そう!と家庭用の家具のデザインの技術向上に目を向けていきました。

おかげで英国独自のスタイルを構築し、英国家具は目覚しい発展を遂げることになりました。


水野友紀子アイコン

英国の家具様式の発展の陰に浮気…いや、宗教改革があっただなんて…なかなか奥が深い(笑)

ここからはチューダー様式の家具の特徴についてお話します。

水野友紀子アイコン

Characteristics

チューダー様式の 特徴

ゴシック様式の影響を受けながら、ルネッサンス様式の要素が加わったチューダー様式の家具の特徴をまとめてみました。

01.オーク材

オーク材

チューダー様式の家具には、主にオーク材が使われています。

とても堅くて重く丈夫な木材の割に彫りがしやすいので、浅浮き彫りを入れた家具が多く、どっしり重厚な雰囲気の中に華やかさがあります。

オーク材の家具にはいろんな色がありますが、チューダー様式の家具にはチョコレートのような濃いこげ茶色が多く、落ち着いた雰囲気のお部屋を演出してくれます。


02.シンメトリー

シンメトリー

チューダー様式の家具のデザインは、教会で使われているデザイン、ゴシック様式がモチーフになっているので、左右対称(シンメトリー)が基本です。

建築物と同じように、アーチや幾何学模様を使った左右対称のシンメトリーのデザインです。


03.浅浮き彫り

フランボワイアン

とても堅いオーク材を使ったチューダー様式の家具には、浅めに彫った彫刻「浅浮き彫り(レリーフ)」が主流。そこにゴシック建築の影響を受けたモチーフが彫られています。

①アーチ(arch)
中央が上方向に弧を描く曲線状のアーチは、12世紀半ばのヨーロッパで誕生したゴシック建築の代表的デザインです。


半円アーチ

いろんな形のアーチがありますが、ゴシック建築で一番使われたのは、先端がとがった「尖頭アーチ(ポインテッドアーチ)」

他にも半円アーチやトレーサリー、炎をモチーフにしたフランボワイアンなどがあります。


リネンフォールド

リネンフォールド(Linenfold)
折りたたまれた布(リネン)のように見える、美しい波を打つような曲線模様のこと。

隙間風対策として壁にはめ込んだ四角い木製パネルに、リネンフォールドを彫った様子が、まるでふんわりしたカーテンのようだと大流行しました。


チューダーローズ

③チューダーローズ
英国の内乱を収めたヘンリー7世が、バラ戦争で戦ったヨーク家の白バラの紋章とランカスター家の赤バラの紋章を組合わせて作った、チューダー家の紋章。

平和のシンボルマークは、チューダー様式の代表デザインです。




Tudor Rose

チューダーローズ

チューダーローズ

チューダー朝が誕生する前のイギリスとフランスの間では、ジャンヌ・ダルクで有名な「百年戦争」が起こりました。

フランスに負けたおかげでイギリスの情勢は悪化。大陸にあった領土をほぼ失ってしまいました。

敗戦を不満に思ったヨーク家のリチャードが反乱を起こし、ランカスター家の国王ヘンリー6世に王位を要求したことで、イギリス国内では勢力争いの内乱が勃発!


ランカスター家、ヨーク家の紋章

ヨーク家の紋章は「白ばら」ランカスター家の紋章が「赤ばら」だったことから「薔薇戦争」と名前がついた戦いで、英国内は混乱します。


チューダーローズ

バラ戦争を収めたのがヘンリー7世であるヘンリーチューダー。

ヘンリー7世は、ヨーク家の世継ぎエリザベスと結婚し、長い間対立してきたヨーク家とランカスター家を統合。

ヨーク家の白バラの紋章とランカスター家の赤バラの紋章を組合わせて作った紋章が「チューダーローズ」です。


Tudor architecture

チューダー様式の建物

チューダー様式は家具だけじゃなく建物も有名です。特に「ハーフティンバー」と呼ばれる柱や梁、筋交いなどの木造骨組みの間を石やレンガ、漆喰などで埋めた住宅が有名です。

The Rows(ザ・ロウズ)

ここは、ロンドンから電車で2時間ほどの場所にあるチェスターに位置する、チューダー様式の町並みが続く「The Rows(ザ・ロウズ)」。ハーフティンバーの特徴的な白と黒を基調とした木枠の壁が印象的です。

現在はショッピング街になっている建物の入り口は別ですが、実は2階以上の部分は全部つながっています!なので、降水量の多いイギリスでも、雨に降られることもなくショッピングが楽しめます。 

また、ロンドンの真ん中で、一番有名なチューダー様式の建物が、英国の老舗百貨店「Liberty(リバティ)」。世界中から人が集まる最も有名なチューダー建築です。


リバティ百貨店

1875年にアーサー・ラセンビィ・リバティが開業した歴史のあるデパートは、日本や東洋の装飾品や織物、伝統工芸品などを販売するお店として始まった小さなお店でした。

カーペットや家具販売から始まり、有名なリバティプリントを作り、1920年代にはロンドンで人気のお店になりました。


リバティ百貨店(内装)

現在の建物は1924年に建てられたもの。

5階建ての建物は外装だけでなく、内装も本物のチューダー・リバイバル風の装飾が施されていて立派なんです。

壁や柱、階段にも施された見事な彫りはチューダー様式らしい重厚な雰囲気を感じさせてくれて、一日中楽しむことが出来ます。


Tudor Room

チューダー様式の お部屋

チューダー様式の家具の特徴は、浅浮き彫り。扉面にたっぷり彫りが入った家具を1つ置くだけで、お部屋の中は重厚な英国伝統の雰囲気に包み込まれます。

01.リビング

チューダーリビング

チューダー様式の彫りが入ったキャビネットは、よく見かけるキャビネットと違ってガラスが入っていないので、より、彫りの美しさが際立って目立って見えます。

チューダーローズの彫りは、「ローズ」と聞いて頭に思い浮かぶような現代のバラとはまた違うデザインで、可憐に咲く姿が美しいです。


02.書斎

チューダー様式の書斎

一番よく見つけるチューダー様式の家具は、ワードローブ。特にリネンフォールドの浅浮き彫りが入ったワードローブはとても人気です。

背が高いので、より彫りの入った扉に迫力が出て重厚感たっぷり。中に何を入れても見えないところがポイントです。


03.和室

チューダー様式の和室

和室と最も相性のいいチューダー様式の家具。彫りがたっぷり入ったチョコレート色の家具は、北海道の民芸家具にも通じる部分があって、とても似合います。

イギリスの家具だから・・・と思わず、ぜひ和室で使ってもらいたいアンティーク家具です。


04.玄関

チューダー様式の玄関

家具と呼べるものがベッドとチェストと呼ばれる箱型の家具だけだった時代。チェストと呼ばれた櫃は、まさに今、コファと呼ばれるブランケットボックスです。

玄関に置けば、いろんなものをオシャレに収納して、靴を履くベンチとして使うのにも便利です。


05.ダイニング

チューダー様式のダイニング

チューダー様式の家具の中で、一番代表的なものが「モンクスベンチ」と呼ばれるめったに見つからないアンティーク家具です。

モンスクとは修道士と言う意味。修道院に入るとき、1つだけ持ち込が許された家具。その家具によく選ばれていた3WAYで使える家具は、テーブルにも、ベンチにも、収納にもなるのでとにかく人気です。





【ご紹介したアイテム】


浅浮き彫りが美しいゴシック・チューダー様式の家具をご紹介しています。


Q&A

チューダー様式とは何ですか?
15世紀末から16世紀初頭のイギリスで発展した、ゴシックとルネサンスの融合様式です。
チューダー様式の家具の特徴は何ですか?
オーク材を使い、浅浮き彫りやシンメトリーなデザインが特徴的です。
チューダーローズとは何ですか?
ヨーク家とランカスター家の紋章を組み合わせた、平和の象徴のバラです。
チューダー様式の建物の特徴は?
木造の骨組みを見せた「ハーフティンバー」構造が有名です。
チューダー様式の起源はいつですか?
1485年にヘンリー7世が即位し、チューダー朝が始まったことが起源です。
宗教改革とチューダー様式の関係は?
宗教改革により家具のデザインが教会中心から家庭向けへと進化しました。
チューダー様式に使われる木材は?
主に重厚で彫刻に適したオーク材が使われます。
チューダー様式の家具は和室にも合いますか?
落ち着いた色味と彫りの美しさが和室にもよく調和します。
モンクスベンチとは何ですか?
ベンチ・テーブル・収納の3WAYで使える修道士の家具です。

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水野友紀子

水野 友紀子

空間スタイリスト。
アンティークショップHandleバイヤー。

大学で小さい頃から好きだった化学実験が出来る薬学を専攻。薬剤師となり、製薬会社で研究職に就く。 結婚を機に、休日は嫁ぎ先の老舗家具屋の手伝いをすることに。
家具のことを学びながら、そこで得た知識と固定観念にとらわれない主婦目線での女性らしい提案が、お客様に喜んでもらえることが嬉しくなり、薬の研究を辞め、インテリアの研究に没頭することを決める。
アンティーク家具に出会い、それまで知らなかった世界に感動。 家具やインテリアに対して伝えたいことや、自らが買い付けてきたアンティークに対する想いを「買い付けうらばなし」や「まいにちハンドル」に綴り、日々配信中。

アンティーク家具Handle
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