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ウィリアムモリスの魅力とは?モダンデザインの父が作った自然美の世界
- 水野 友紀子

最近、日本でめちゃくちゃ人気でいろんな場所で見かけるようになった「ウィリアム・モリス」のテキスタイルデザイン。
そもそもウィリアム・モリスとは、英国を代表するデザイナー。詩人でもあり、さらに小説家や社会運動家、織物や染め物職人に翻訳家、建築保護運動家、印刷工房や会社の経営者・・・などなど、いろんな顔を持つアーツ・アンド・クラフツ運動の主導者です。
今回は「モダンデザインの父」と呼ばれ、英国の産業に大きな影響を与えたウィリアムモリスについてお話しします。
Handle 水野 友紀子
ウィリアムモリスとは?
ウィリアム・モリス(William・Morris)とは、19世紀の英国を代表するテキスタイルデザイナーの名前です。

デザイナーと言いましたが、実は他にも詩人、小説家に翻訳家、社会主義運動家に建築保護運動家、織物や染め物職人や印刷工房、会社の経営者など、「一般の人々にいい商品を届ける」と言う理想を掲げていろんな分野で活躍し、大きな業績を挙げました。
1834年にロンドン近郊で裕福な家庭に生まれたウィリアムモリスは聖職者を目指してオックスフォード大学に入学。

そこで親友になる画家のエドワード・バーン=ジョーンズに出会います。
2人は一緒にフランスに旅に出かけて、そこで目にした中世美術やゴシック建築の素晴らしさに感銘を受け、芸術家を目指すようになります。

親友のバーン・ジョーンズは、「ラファエル前派」という芸術革新運動のリーダーだったロセッティに弟子入りするため、大学を卒業する前にロンドンに。
モリスは、大学を卒業した1859年に建築家ストリートの事務所に入所。そこで建築家フィリップ・ウェッブと出会います。
週末になるとロンドンにいる親友に会いに出かけたモリスに、師匠のロセッティが絵を描くことをすすめると、モリスはあっけなくストリート建築事務所を退所し、バーン・ジョーンズと共同生活を始めます。

共同生活をするアパートに置く家具を探した2人は、気に入る家具が見つからないので、自分たちで家具を製作することを決心!
このことがきっかけになり、その後、レッドハウスの建築を協力したロセッティやフィリップ・ウェップなど合計7人で1861年4月11日に「Morris, Marshall, Faulkner & Co.」(モリス・マーシャル・フォークナー商会)を創設します。

レッドハウスのために作られた刺繍の壁掛けをきっかけに刺繍製品を扱っていましたが、1862年に開催されたロンドン万博博覧会で出展した「Daisy(ひなぎく)」の刺繍が金賞を受賞!
ステンドグラスや絵付け家具も評価されるようになったことで、美術工芸品ではなく、暮らしの道具として日々使えることを重視した、家具からステンドグラス、壁紙やファブリックなど、暮らしを彩るあらゆるインテリアデザインを全て手掛ける会社として発展していきます。
1865年には今のヴィクトリア&アルバート博物館(当時のサウスケンジントン博物館)に増設されたカフェスペースの1つ「The Green Dining Room(緑の部屋)」と呼ばれるスペースをデザインします。
その後、1875年にMorris & Co.(モリス商会)と改称。
モリスが単独で所有するようになると、オックスフォード449番地にお店を構え、ナチュラル染料の復活や伝統的技術を重視し、手仕事の芸術化を目指して職人の地位を高めるためにデザインを描くようになります。

産業革命によって、大量生産された粗悪な商品が広まっている状況を批判し、職人によって生み出されていた美しい手工芸の復興。そして、生活と芸術を統一することを主張したモリスの理念は、1880年代前半ごろから、アーツ・アンド・クラフツ運動としてイギリス全土へ広がり、20世紀初めのモダンデザインやバウハウス運動の基礎になっていきました。
訪ねてみよう!モリスが住んだ建物
イギリスにはウィリアム・モリスのデザインや生活を体験できる場所がイギリスにはあります。その一部をご紹介します。
Water House ウォーターハウス

モリスが生まれたウォルサムストゥにあり、1950年からウィリアムモリスギャラリーになっているWater House(ウォーターハウス)。
13歳でお父さんを亡くしたモリスはパブリックスクール、モールバラ校に入学し、寄宿生活を送りましたが、学内騒動で自主退学。
ここで1年間、大学入学試験の勉強をしながら家族と一緒に暮らしていました。
18世紀の半ばに建設された都市住宅型のジョージアン様式で建てられた建物には、アーツ&クラフツ運動のセンチュリー・ギルドのコレクションも展示されています。
Red House レッドハウス

1859年にジェーンと結婚したモリスが新婚生活を過ごすため、建築家のフィリップ・ウェップと協力して建てた「Red House(レッドハウス)」
現在はナショナルトラストが管理していますが、なんと言っても特徴は、名前のとおり赤いレンガ造りの外観。
中世ゴシックを思わせる二階建ての住宅の家具一式はウェップがデザインしました。
またバーン・ジョーンズやロセッティと一緒に、壁紙やステンドグラスなどをデザインし、それまで思い描いていた生活と芸術が一致した美しい邸宅が完成しました。
ここで共同制作を行ったことにより、その後、1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会が設立します。
Kelmscott Manor ケルムスコットマナー

コッツウォルズの外れのケルムスコットという小さな村の奥にある大きなマナーハウスが、モリスが最も愛した家「Kelmscott Manor(ケルムスコット・マナー)」。
初めてこのマナーを見たモリスは、帰りの電車の中で友人に「地上の天国」と書いた手紙を送るほど気に入っていたマナーで、たくさんのデザインを作り出しました。
現在はロンドンのチャリティー保護団体(Society of Antiquaries of London)が所有し、4月から10月までの間、一般公開されています。
V&A Museum ヴィクトリア&アルバート博物館

ヴィクトリア&アルバート美術館の前身、サウス・ケンジントン博物館が1857年に開館。
まだ無名だったモリス・マーシャル・フォークナー社が1865年にデザインしたのが、現在「The Morris Room(モリスルーム)」と呼ばれている「The Green Dining Room(緑の部屋)」です。
モリスはフィリップ・ウェッブとエドワード・バーン=ジョーンズに装飾の手伝ってもらい、ゴシック・リバイバル様式とエリザベス朝様式のパネル装飾に影響を受けた設計を提案。
完成したダイニングルームはロンドンっ子たちの評判となり、モリス・マーシャル・フォークナー社は有名になりました。
ウィリアムモリスのデザイン
ウィリアムモリスがデザインした代表的なパターンをご紹介します。
Daisy

モリス・マーシャル・フォークナー商会が設立して、最初にデザインされた壁紙の1つ「Daisy ひなぎく」
草野の中に、黄色いヒナギクと赤いオダマキ、赤と白の野に咲く花々が散りばめられた
自然主義を体現したデザイン。
1860~70年代にタイルやステンドグラス、刺繍のデザインにも使われました。
Trellis

「Trellis 格子垣」もモリスが最初にデザインした壁紙の一つ。
レッドハウスの中庭を仕切っていた薔薇の格子垣をヒントに描かれた正方形の木製の格子に巻き付いたバラの花。
鳥を描くのが苦手だったモリスの代わりにフィリップ・ウェップが描いた青い鳥や小さな虫が特徴のデザインです。
Pomegranate or Fruit

同じような小枝に4種類の異なる果実がなっている様子が描かれた「Pomegranateざくろ or Fruit 果実」
よく見ると葉っぱの大きさや形が微妙に違っていたり、それぞれに丸みが違う果実が描かれていたり、モリスの工夫が随所に見られるモリスの代表作品です。
Honeysuckle

1876年に発表されたHoneysuckle(ハニーサックル)とは、すいかずらのこと。
中東や南アジアの装飾文様の影響を受けた、ツルが曲線的に伸びる構図が美しいウィリアムモリスのデザインです。
モリスの娘・メイモリスが1983年に描いた同じ名前の「スイカズラ」は彼女の代表作です。
Marigold

素朴で親しみやすいマリーゴールドの花が描かれた、1875年にデザインされた「Marigold マリーゴールド」。
のびやかに広がる葉っぱが連続模様で描かれて、ストライプ模様のような効果を出しているデザインです。
壁紙だけではなく、木綿や麻の内装用ファブリックとしても使われました。
Bird and Anemone

1882年に登録された「Bird and Anemone 小鳥とアネモネ」。
アネモネの花が咲き誇る枝葉の間を、小鳥が飛び交う様子が淡色の色彩設計で描かれたデザインです。
このパターンはマリーゴールドと同じく、壁紙と内装用のファブリックの両方に使える、数少ないデザインの1つです。
Pimpernel

1876年にウィリアム・モリスがデザインした「Pimpernel ピンパーネル」とは、日本名でルリハコベのこと。
チューリップの花と優雅に絡み合ったアカンサスの葉の合間にルリハコベの小さな花が描かれたデザインです。
モリスの晩年の家「ケルムスコット・ハウス」のダイニングルームに使われていました。
Brer Rabbit

モリスが子ども達に読み聞かせしていた『リーマスおじさん(Uncle Remus)』の物語シリーズに登場するウサギがモチーフになった「Brer Rabbit(ブレアラビット)」
マートン・アビーに工房でインディゴ抜染の研究に取り組んだモリスが初めてインディゴ抜染を成功させたデザインです。
Snakes head

1876年にウィリアム・モリスがデザインした「Snakeshead(スネークヘッド)」。
蛇の頭のように見える神秘的な黒百合「フリティラリア(fritillaria)」の花を、絡み合う蔓とともに描いたデザインです。
インドのテキスタイルの影響を受けてデザインしたインド更紗調の作品です。
Strawberry thief

ウィリアムモリスのデザインの中で、日本で一番、有名な「いちご泥棒(strawberry thief)」。
モリスの家の庭に、イチゴを食べにやって来る鳥を見ていて思いついたデザインには、イチゴを食べる鳥が生き生きと描かれています。
1883年にインディゴ抜染を成功させたパターンの一つです。
Willow bough

ケルムスコット・マナーのほとりに流れている小川を、娘のメイと歩いていた時に見つけた柳の枝を描いた「Willow bough(ウィローボウ)」
枝葉を上へ伸ばす様子や、細かく観察した柳の葉が生き生きと描かれた、1887年に発表されたこの作品は、モリス商会を代表するデザインの1つです。
Vine

風邪にゆらゆら揺れるブドウの房に、蔓が絡みながら伸びている様子が描かれた、繊細でリズミカルなデザイン「Vine(ヴァイン)」。
トレーサリー(更紗)パターンでモリスがデザインした1873年の格調高い作品です。
アーツ・アンド・クラフツ運動とは?
アーツアンドクラフツとは、ヴィクトリア朝後期、19世紀後半から20世紀初めのイギリスで、ウィリアム・モリスが主導して行われた美術工芸デザインの復興運動のことです。
当時、世界で最も工業化が進んでいた19世紀ヴィクトリア朝のイギリスでは、産業革命によって工業化や機械化が飛躍的に進み、大量生産によってつくられた低品質で安価な製品が出回るようになりました。
その一方で、効率性向上のために生産方法が分業制になったことで、熟練した職人たちの賃金が低下。仕事に対する誇りや手仕事の美しさが次第に失われていきました。
そんな中、ウィリアムモリスは労働者階級の職人たちの仕事に対する尊厳や地位を向上させようと仲間たちと一緒に、1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会を設立。壁紙やステンドグラスなど植物をモチーフにしたインテリアや芸術性豊かな書籍を制作しました。

「美しいと思わないものを家に置いてはならない」というウィリアムモリスの理念は、実用的に使うものも、絵画や彫刻のように芸術的な価値があるとする「アーツ・アンド・クラフツ運動」を通して広がります。
アールヌーボー、アールデコの時代を経て、世界各国のデザイン界に影響を与え、20世紀モダンデザインの原点として高く評価されています。
一般の人々に良い製品を届けるという理想を掲げ、後の産業にも大きな影響を与えたことから、ウィリアムモリスは「モダンデザインの父」と呼ばれるようになりました。
モリスと暮らすお部屋
最近、日本でもすごく人気のウィリアムモリス。中世美術やゴシック建築を愛したモリスのデザインは、アンティークの家具にとてもよく似合います。
実際に、モリスをいろんな場所で使ったお部屋をご紹介します。
ガラスキャビネット

ガラスキャビネットの背板の生地はキャビネットの印象を決めるポイントの一つです。
アンティークのガラスキャビネットを修復する際に、新しい壁紙で貼り替えていますが、ウィリアムモリスの壁紙を選んでみました。
面積が大きい壁紙だとドキドキしますが、キャビネットの背板だとサイズも小さいのでチャレンジしやすいです。

モリス生地に貼り替えたハーフムーン型のアンティークキャビネットをテレビボードの横に置いたリビング。
お部屋の壁が無地なので、モリス柄のキャビネットの背板がまるで壁紙の一部のように見えて、華やかなリビングになります。
ダイニングチェア

アンティークチェアの座面も、気持ちよく使ってもらえるように、修復する際に全て新しい貼り地でを貼り替えています。
背もたれの装飾がシンプルなオーク材のダイニング椅子にはウィリアムモリスのデザインはとてもよく似合うので、張り替える際に使ってみました。
チョコレート色の椅子に、モリスのモチーフが加わることで、上品さがプラスされた椅子に変身です。

オーク材のアンティーク家具でトータルコーディネートしたダイニング。モリスが好きだった中世のスタイルのお部屋は、全体的にダークなチョコレート色の重厚な雰囲気のお部屋です。
そこに、モリス柄の座面がプラスされることで、アクセントを作ってくれます。椅子の座面を貼り替えることで雰囲気も変わるので、ぜひチャレンジしてみて下さい。
カーテン

日本ではあまり重要視されることがありませんが、カーテンは実はお部屋の中でかなりの面積をとる重要な場所。
カーテンを交換するだけで、お部屋の雰囲気が大きく変化するので、私は季節に合わせてカーテンを交換しています。
壁紙を貼り替えるのは大変ですが、カーテンは交換しやすいアイテムなので、モリスデザインの生地のカーテンと交換してみました。

モリスのデザインはとっても華やかなので、モリス柄のカーテンにするだけで
意外ですが、連続柄を使っているモリスのデザインは、和室にもとてもよく似合うので、ぜひ試してみて下さい。
ソファ

ちょっと贅沢ですが、Handleオリジナルのソファ「Marie」の貼り座にウィリアムモリスのデザインの生地を使ってみました。
ソファは意外ですが、とても面積が広いのでお部屋の印象を決める重要なアイテム。
壁紙やカーテンをお揃いにして、お部屋全体をトータルコーディネートすることも出来ます。

コンパクトサイズの1人掛けと2人掛けソファを組合わせて、サロンセットを作ってみました。
お揃いのデザインの椅子で組み合わせることで、統一感と高級感が漂うお部屋になります。
ランプシェード

気軽にウィリアムモリスを楽しみたい方におススメなのが、照明の傘、シェードです。
テーブルランプからフロアランプ、クリップタイプで電球に被せるものまで、いろんな照明のシェードに使って、気軽にモリスの世界を楽しんでみましょう!
他のアイテムと組み合わせることも出来るのでおススメです。

ブレアラビット柄のソファに合わせて、フロアスタンドのシェードを合わせてみました。
同じデザインのシェードを組合わせることで、トータルコーディネートされたリビングが出来上がって、お部屋の雰囲気もすごくいい感じデス。
壁紙

新築やリフォームの方には、ウィリアムモリスの壁紙がおススメです。
やっぱりモリスの世界観が一番楽しめるのは、壁面いっぱいに広がる壁紙。
でも、なかなかチャレンジするのに勇気が・・・と言う方には、トイレや玄関の一部、廊下など、ちょっとした小さなスペースで試してみることをおススメします。
狭いスペースを貼り替える場合、繊細で細かいデザインのものを選ぶことをおススメします。ほんのちょっとのスペースでも、モリスらしさは十分楽しめます。

大きな部屋は、大柄の模様がおススメ。色やデザインなど、数限りなくあるので悩むことも多いですが、お気に入りの色とデザインのモリス柄を探して、素敵なお部屋作りを楽しんでみましょう。
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水野 友紀子
空間スタイリスト。
アンティークショップHandleバイヤー。大学で小さい頃から好きだった化学実験が出来る薬学を専攻。薬剤師となり、製薬会社で研究職に就く。 結婚を機に、休日は嫁ぎ先の老舗家具屋の手伝いをすることに。
家具のことを学びながら、そこで得た知識と固定観念にとらわれない主婦目線での女性らしい提案が、お客様に喜んでもらえることが嬉しくなり、薬の研究を辞め、インテリアの研究に没頭することを決める。
アンティーク家具に出会い、それまで知らなかった世界に感動。 家具やインテリアに対して伝えたいことや、自らが買い付けてきたアンティークに対する想いを「買い付けうらばなし」や「まいにちハンドル」に綴り、日々配信中。
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アンティーク家具Handle
(水野商品館 株式会社)1903年創業
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